トールキン Advent Calendar 2016の25日の記事です。
そういえばあらためて語っていなかったような気がします。何故私はトーリン二世……トーリン・オーケンシールドが好きなのか。
原作『ホビットの冒険』でトーリンが最初に登場するのはビルボの家の玄関先でビフール・ボフール・ボンブールの下敷きになって現れる場面です。ビルボが勢いよくドアを開けたせいで、四人は重なり合って倒れて家に入る事になってしまったのです。トーリンは大変お高くとまるたちなので「ごべっこんに」と言わないとされていますが、そのトーリンをして、ビルボがあまりに何度も謝るので根負けして許してしまうのです。なにこれ可愛い。
こう言っては失礼なのかもしれないけれど、このドワーフの長が物凄く可愛いと思ったのです。頑固でお高くとまる質なのに下敷きになって登場するトーリン可愛い……
そして銀の房のついた青空色の頭巾という、何とも素敵なヴィジュアルイメージ。奏でる楽器は金のハープ。この美しさが目に浮かぶようで、トーリンというドワーフが一気に好きになりました。トーリンのハープが主旋律となって、歌われるはなれ山の歌。登場シーンはユーモラスで可愛いながらも、神話の英雄のようなシリアスさも持つトーリン素敵。旅に出る時にはハムに卵を六つ落とすのが好きって……可愛い。樽に入って闇の森を脱出した後で樽から出てびしょ濡れの犬みたいになっているトーリンも、可哀相なんだけど可愛い……。本当に、色々な場面のトーリンがいちいち可愛いのです。
もしかしたら、このトーリンの可愛さというのは瀬田貞二氏による邦訳による所が大きいのかもしれません。原文の英語だとトーリンはもっと高慢で鼻持ちならない印象を受けるという話も聞きますし。ともあれ私はトーリン・オーケンシールドの、この何とも可愛げのあるかっこよさに夢中になったのでした。けっして完璧じゃないし頑固で気難しくてごうつくばりでどうしようもない老人なのですが、でもそこが良いのです。何とも愛着が沸きます。
トーリンは戦いでも割と活躍します。弓の腕も確かです。旅の途中トロルに出会った場面でも大枝を手にトロルに立ち向かいます。トーリンがトロルの岩屋で入手するのがエルフの剣オルクリストというのがまた。
トーリンは仲間想いです。トロルに捕まった仲間を取り戻そうと果敢に戦いました。はなれ山に辿り着いてスマウグが襲ってきた時、ボンブールとボフールがはぐれた時にもトーリンは彼らを絶対に見捨てようとしませんでした。甥であるフィーリとキーリについても特別扱いはしないながらも大切に思っているのが見て取れます。その二人が自分を庇って死んでしまってどれほど辛かったことか。
トーリンは最後、オルクリストではなく斧を持って戦いました。しかし葬儀の際にバルドがアーケン石を、エルフ王(スランドゥイル)がオルクリストをトーリンに捧げるのです。この場面は本当に美しく、悲しくも荘厳で忘れられないと思いました。墓所に差し込む光が目に見えるかのよう。
児童書らしいユーモラスさと神話の英雄のような悲愴な強さ美しさ、それらを併せ持ったトーリン・オーケンシールドに惹かれるのです。
それから追補編。『ホビットの冒険』の背後にあった出来事が語られます。オーケンシールド(樫の盾)の名の由来が語られ、アザヌルビザールでの戦いではダインだけでなくトーリンも勇敢に戦ったことが分かります。ダイン二世とトーリン二世、直接の会話シーンはありませんでしたがこの二人の若いドワーフ王族の間に友情が生まれていた可能性もありますね。戦いが終わりこれからどうするかとの父スラインの問いに「鉄床に」と答えたトーリン。その後青の山脈にてドワーフ達は徐々に増え、生活は落ち着いて来ます。青の山脈で一族郎党の暮らしを立て直し、自活して落ち着いた生活を営むに至るだけの才があった事がうかがえます。戦士としてだけでなく職人や商人としての側面。「かれは喜んでエリアドールに腰を落ち着けているかに見えた」という一文からは、トーリンには果敢な戦時の指導者としての面だけでなく身近な生活の安定を重んじる平時の指導者としての素養もあったことが分かります。
ホビットの冒険の背景は終わらざりし物語の中の『エレボールの遠征』でも描かれていますね。本当にトーリンはのっぴきならない立場に立たされていたのがよく分かるというか何というか。
映画のトーリンは、実はヴィジュアル的な意味で物凄くイメージ通りでした。原作のホビットの冒険を読んだ時にトーリンには、エルフや人間の基準でも通じる美ドワーフというイメージがずーっとあったので。銀の房のついた空色の頭巾、エルフの剣を揮う、彼の掛け声で同族のみならず闇の森や湖の町の人間達が後に続く……これらの場面を考えるにトーリンはやはり姿形も美しくなければ、と思ったので。ある意味ではドワーフらしからぬ、異形の(反対にダイン二世はドワーフらしい偉丈夫だが中身は割と柔軟なイメージ)。トーリン二世は痛々しいくらいに美しかったんだと思うんですよ。リチャード・アーミティッジさんのトーリンは実に理想的でした。イメージ通り。
特に映画一作目のトーリンは仲間を大切にする頼りがいあるリーダーでそれでいて頭の固い頑固なところもあるという理想的なトーリン像でした。ビルボに対する信頼の芽生えも、トーリンの魅力をよーく表していました。迷子属性というのもまた、原作のトーリンの可愛さを別の方法で表しているようで。
アニメ版は基本的には原作と変わりませんがところどころ違いがあり、終盤では原作のダインの代わりにトーリンがバルドやエルフ王と連合を組み、ゴブリン軍と対峙します。
ところでトーリンに仲間の12人を加えたドワーフ一行は13人です。ビルボを入れて14人、ガンダルフを入れると15人。トールキンは中つ国を描く上でキリスト教の影響を避けているようですが13という数字が不吉という観念はあるようですね。と、調べてみると13が不吉な数字だというのは必ずしもキリスト教由来ではなく諸説あるらしいとか。暦法や方位に使われる12に1加えたアンバランスな数字だから13は不吉という説もあるようなので、それならば中つ国でも同じ感覚があってもおかしくないのかも。
作中直接キリスト教を描く事は避けているようですが、トーリン・オーケンシールドと12人のドワーフという構成はイエス・キリストと十二使徒を連想させられますね(この十二使徒というのも確定した呼び方ではないようですがそれはそれとして)。
Tolkien Writing Day(
http://bagend.me/writing-day/)に参加しました。