いつどうして好きになったのかは忘れてしまいましたが、末期ヌメノールが好きです。特に最後のヌメノール王アル=ファラゾーンとその周辺の人々が好き。
第25代目にして、最後のヌメノール王アル=ファラゾーン。私はこの人物が何故かとても好きです。彼は本来王位を継ぐ立場ではありませんでした。祖父アル=ギミルゾールにはインジラドゥーンとギミルカードという二人の息子がいて、ギミルゾールはファラゾーンの父である次男ギミルカードの方を可愛がったのですが、結局は法に則り長男であるインジラドゥーンが王位を継ぎました。王位についたインジラドゥーンはクウェンヤ名のタル=パランティアを名乗り、退廃したヌメノールを改めようとしました。本来ならばタル=パランティアの娘ミーリエルが父の跡を継ぐ予定だったのですが、従弟であるファラゾーンが法に反し彼女を無理矢理妻とし王となったという流れです。
このファラゾーンは中つ国への遠征を行い略奪した富をヌメノールに持ち帰るなどかなりめちゃくちゃを行っていた人物でしたが、彼の即位が支持されたのはそれがヌメノールの民意の表れでもあったのでしょう。
アカルラベースには、アル=ファラゾーンは若い頃、アンドゥーニエ最後の領主アマンディルと親しかったとの記述があります。つまりファラゾーンは元から強欲で尊大な人物だった訳ではなく、以前はそうでなかったらしいのです。ファラゾーンは彼の祖母インジルベースを通してアンドゥーニエ領主家と血縁があり、アマンディルはかの丈高きエレンディルの父親です。エレンディルの生年はファラゾーンより1年遅いだけの年の違いなので、アマンディルとファラゾーンは友人というより親子に近いような関係だったのかもしれない、と想像する事もできると思います。
草稿集であるHoMEの12巻The Peoples of Middle-earthには指輪物語追補編の初期版が収められています。その中にはヌメノールに関する記述もあります。何とそこにはアル=ファラゾーンとタル=ミーリエルの物語の初期版があり、そこではミーリエルは最初はアマンディルの兄または弟のエレンティアと婚約していたという記述があります(アマンディルのきょうだいならばミーリエルよりも大分年上になってしまいそうなのですが、この時は年齢設定が違ったのかもしれません)。当初エレンティアと婚約していたにも関わらずファラゾーンに惹かれ彼と結婚したと……そういう草案もあったようなのです。ここでは若年期のファラゾーンは初代王(エルロス?)を思わせるような力と美を持っていて、古のエダインと違ってはいなかったとあります。そんな若ファラゾーンが、父ギミルカードの助言と民からの歓心により堕落していったとの事ですが……実に興味深いです。
HoME12の記述によればタル=ミーリエルは美しく、小柄で、輝く目を持ち、技に優れていたとあります。ファラゾーンよりも1歳年上でしたが若く見えたらしいです。この記述はどことなく、ノルドール・エルフの王フィンウェの最初の妻であるミーリエル・セリンデ(フェアノールの母)を思い起こさせると思いました。同じミーリエルという名を持つからそう思うのでしょうか。そしてアンドゥーニエ領主家の祖となった王女の名はシルマリエン(おそらく由来はシルマリル)。フェアノールが作った宝石から、フェアノールの母へと歴史を遡るかのようなネーミングが面白いです。
クウェンヤ名タル=カリオンはアドゥナイク名アル=ファラゾーンの直訳ではなく、その意味は『光の息子』だと知った時は感銘を受けました。彼はもしかしたら、祖父や父に逆らい伯父と同じ道を進みヌメノールの歴史を正す中興の祖となったのかもしれない。そんな予感を覚えるような名前でした。
なお、HoME5にもヌメノールの没落についての物語があり、それは後々のものとは大分違うのですが、そこにもTar-Kalionという名のヌメノール王は出てきます。タル=カリオンという名の王が最後の王のヌメノール王であったという構想は初期からのもののようです。妃の名はTar-Ilienでした。
第二紀はその資料の少なさゆえに暗黒時代と呼ばれます。ですが私には第二紀は、時代的にはもっと後である第三紀以上に現代世界に近しいものを感じます。第二紀の歴史が欲望のために身を持ち崩した人々の歴史であるためでしょうか。科学技術が発達した資本主義経済を生きる20世紀以降の地球に近いものを感じます。
Tolkien Writing Dayに参加しました。
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