HoME10に載っている、『ATHRABETH FINROD AH ANDRETH』の中で言及されている、人間の女性アンドレスとフィンロドの弟アイグノールの恋物語。
作中ではエルフ女性と人間の男性のカップルは沢山でてきますが逆はこの一例しかないのですごーく貴重です。フィンロドがベレンとルーシエンのために尽力したのは弟アイグノールの結ばれない恋の件への思い入れもあっての事だったようですので、もしかしたらアイグノールとアンドレスが結ばれていれば中つ国のその後の歴史も色々と変わってきたのかもしれない。
数少ないエルフ男性×人間女性のカップルですし是非描きたい!と思っていたのですがなかなかイメージが固まらず。
アンドレスは賢く、人間の伝承によく通じた女性で、エルダールからもSaelindすなわちWise-heartと呼ばれていたそうです。アンドレスはベオル家の女性で父祖ベオルの玄孫にあたります。アンドレスのきょうだいのブレゴールの息子が隻手ベレンの父バラヒア。つまりアンドレスはベレンからみたら大おばという事になりますね。ここの家系図ではベオル家とハドル家との姻戚関係についても言及され、ハドル・ローリンドルの姉(または妹)アダネルが、父祖ベオルの次男ベレンの孫ブレミアと結婚しています。このアダネルもまた賢者と目された女性であり、アンドレスは幼少時にブレミアの家に住み、アダネルからマラハ族とベオル族の伝承について学びました。
フィンロドはよくアンドレスの元を訪れ、彼女から得られる知識を重要なものと考えていたらしいとか。つまりアンドレスは相当に賢く、しっかりした好奇心と向学心に溢れる女性だったと考えられる訳ですね。そうするとそういう女性を選んだアイグノールの人物像もおのずと定まってくるような。
フィンロドによればアイグノールは彼女への愛を貫き、もはや如何なる同族の女性の手を取る事もないだろうと。そうして後に彼はベレリアンド第四の会戦ダゴール・ブラゴルラハにて命尽きるのです。結ばれなかったただ一度の恋に殉じ、エルダールにしてはあまりにも短いその命を燃やし尽くした生き様という事になるのでしょうか。
ブラゴルラハではハドル・ローリンドルも、アンドレスの甥バラヒアも討死していますが、女性陣はバラヒアの妻エメルディアに率いられて避難したりしていますから、アンドレスもこの段階ではまだ生き延びた可能性が高いと思われるのですが、「おそらくこの時に亡くなっただろう」と書かれていますね。アイグノールの戦死の報を聞いて避難を諦めた……というような形なのでしょうか。
アイグノールはフィナルフィンの息子達の中で言うと一番年下、妹のガラドリエルを除けばほぼ末っ子といってもいいような立場。兄達からは結構可愛がられていたのかもしれないですね。HoME12の『The Shibboleth of Fëanor 』によれば、アイグノールの名前は父名がAmbaráto(シンダリンにするとAmrod)、母名が(Fell Fireを意味する)Aicanárであり、彼自身は似た名前のアングロドと区別する意味もあってか、父名よりも母名の方で呼ばれるのを好んだらしいとか。この母名は予言的な命名であり、彼は非常に勇敢でその目は戦いに際しては怒りで炎のように燃えていた。そして彼の髪は他のきょうだい達同様に金色であったが硬い髪質であり(?)、まるで炎のように立ち上がっていたらしいとか……どんな髪形だったのでしょう?
こういった記述を見るとアイグノールは割と熱血というか真っ直ぐなタイプで、どちらかというと素直で子供っぽい感じかなーと思いました。そしてわざわざアングロドと区別するために母名を好んだという辺り、すぐ上の兄アングロドとはワンセットな感じで仲良しだったのかも?と。
(フィナルフィンは妻の一族の言葉であるテレリ語を好み、フィンロドとアングロドの父名もテレリ語で付けたらしいです。)
きょうだいの中でも末っ子に近くて割と素直な真っ直ぐキャラのアイグノール。賢者のアンドレス。こう考えていくと、何となく二人の人物像や関係性が固まってくるような。アイグノールの方が子供っぽくて、アンドレスの方がしっかりしてたらいいなぁ。
そして考えてみるとアイグノールとアンドレス、そしてアングロドは、映画版ホビットのキーリとタウリエルとフィーリを連想させるかもしれない。アイグノールはキーリ要素(異種族に恋するが伯父に仕えて戦って死ぬ)とタウリエル要素(不死のエルフ)が混ざった感じかな。アングロドとアイグノールのセットになってる感がフィーリとキーリっぽいし。自分の中では何となくそんな感じでイメージしています。
アイグノールの記述は少ないけれど、同族の美女を選び放題の立場にも関わらず人間の女性を選んだって時点で絶対に凄く良い人ですよ!!
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