そういえば、漫画を描いた割にはあらためて語っていなかったような。
ナルン・イ・ヒーン・フーリンの作者、ハドル族の詩人ディーアハヴェル(Dírhavel、Dírhaval)について。
気になるんですよねーこの人。HoME11巻の311~315Pによれば、ベレリアンドのエルフや人間、あらゆる場所から来る情報を集めナルン・イ・ヒーン・フーリンを作り上げたらしい。そしてシリオンでの、フェアノールの息子達による襲撃によって命を落とします。彼の作った物語はエルフからも高く評価され、後のヌメノールにも伝わったらしいとか。
個人的に、何故この人が気になるかと言えば、その情熱は一体何処からきたのだろうかという疑問からです。だって第一紀終盤のベレリアンドと言えば、エダインもエルフも定住の地を失い生き延びるのにすら苦労していただろう時代です。シリオンの港でのエアレンディルの統治時代は多少落ち着いてはいたでしょうが、それでも人に寿命がある事を考えれば生存に直接関係のない事にここまで熱心になれるだろうか、と。
ディーアハヴェルは様々な人達に取材し情報を収集したという。これはベレンやトゥオル、エアレンディルに関する英雄譚とはまた違っているように思えます。事実をなるべく正確に、偏らないように残そうという姿勢がそこにはあったのではないでしょうか。ディーアハヴェルが取材した中にネルラス(トゥーリンと面識がありながら死亡が確認されていない数少ない人物)もいればいいのにな、と思います。
何故彼がこんなに熱心だったかという一つの仮説として、私はディーアハヴェルもまた(フーリンと同様に)妻子を失っているのではないかと想像しました。家族がいた場合生存に不可欠な事柄に時間を割いていたのではないかと思うからです。フーリンの子らの物語はトゥーリンの死では終わらずフーリンが身を投げるまで続き、さらには息子達を失ったミームというドワーフも登場します。ここに何らかの、(出来事そのものは事実であっても)ディーアハヴェル自身の心情が反映されてはいないかと思うのです。
シルマリルリオンに含まれる、四人の英雄の物語。トゥーリン以外の三人はベレン・トゥオル・エアレンディルでしょう。この三者はエルロスとエルロンドを通してヌメノール王家やアンドゥーニエ領主家、テルコンタール朝に繋がる。どうにもトゥーリンだけが異質です。
ナルン・イ・ヒーン・フーリンは敗者の物語です。トゥーリンは巨竜グラウルングを倒し、伝承によればやがてモルゴスを倒すとすら言われているけれど、それでも彼の人生は悲運のうちに幕を閉じました。フーリン・モルウェン・ラライス・ニエノールについても同様。何らかの救いはあったとしても、やはり悲しい物語です。このような異質な物語が何故好まれ語り継がれたのか。それはやはり人々が、ベレンやトゥオルのような華々しい英雄の活躍の影に忘れ去れた名もなき人々が、共感する要素があったからではないかと思うのですが。
ディーアハヴェルとペンゴロズには交流があったようですが、個人的には親友と呼べるほどではなくある程度距離を置いた付き合いだったイメージですねー。ペンゴロズはどちらかというと体制側の人というイメージですから。名もなき者達に寄り添うディーアハヴェルの方としては、立場の違いを認識していたのではないかと。
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