中つ国最後の上級王ギル=ガラドと、指輪戦争諸悪の根源にしてドワーフの友ケレブリンボール。
海外だと結構このコンビを描いている人もいるのですが、やはりケレブリンボールのナルゴスロンド滞在と絡むせいかギル=ガラドをオロドレスの息子設定で書いている人が殆どですね。そちらの方が教授の最新設定なのは分かっていますが、私はやはりギル=ガラドはフィンゴンの息子のイメージ。フィンゴルフィンの孫のギル=ガラドとフェアノールの孫のケレブリンボールの方が、歴史は繰り返すといった感じで因縁深くていいよねと思います。
(でも一緒にナルゴスロンドから逃げのびて第一紀終盤を共に生き抜くファンフィクションとか、呼んでいて実に幸せになります。)
個人的にはギル=ガラドのヴィジュアルはほぼ映画版のままで想像しています。焦げ茶がかった黒髪ウェーブで、ブルーグレーの瞳。健康的な美丈夫のイメージ。後ろ頭を覆うようなデザインの金の冠。それに対してケレブリンボールは黒髪ストレートロングで薄い灰色の瞳、不健康な感じのクールビューティ。身長差はそれなりにある感じで。二人とも黒髪ノルドールだけど全体的な印象は対照的な感じでイメージしています。見た目はそれぞれフィンゴルフィンとフェアノールの再来みたいな。
指輪物語に嵌った当初はあまり意識していなかったのですが、色々考えていくうちにこの二人もまた作中に数ある対称構造の組み合わせなんだなーと思い、それから俄然興味が沸いてきました。第二紀のエルフとして、道を誤らなかった者と誤った者として。この二人は確かに対になる存在なのだと思います。第二紀を代表する人間のエレンディルとアル=ファラゾーンのように。
私の中ではこの二人は何処までいっても上級王の片想いです。二人の気持ちがかち合う事はあり得ない。もしこの二人が上手くいっていたとしたらケレブリンボールはドワーフの王国のそばに住まなかったし、サウロンに利用される事もなかったと。物語はまるきり変わっていた事でしょう。同族であるエルフの間に受け入れられなかった、そこに安住の地を見出せなかったという事実がケレブリンボールの運命をああいうふうに向かわせたのだと思っていますから。ケレブリンボールが同族であるエルフには馴染めず、いつかは死に別れるドワーフを愛した事が、おそらくはサウロンの計画に乗ってしまった大きな理由の一つ。ギル=ガラドの想いが報われていたら、指輪物語のストーリーは始まらないのです、きっと。
自分の中ではこの二人が最初に会ったのは第一紀の終盤、ケレブリンボールがナルゴスロンド難民になってからだと思っています。バラール島かシリオンの河口の避難先で、まだ少年だったエレイニオン殿下にあったのかなあと。又従兄弟同士ですが年が相当離れているのでケレブリンボールの方はとっくに成人ですね。まだ幼く、エルフ間の不和の事もケレブリンボールの置かれた複雑な立場も何も知らないエレイニオンが物知りで物腰穏やかなケレブリンボールに無邪気に懐く図を想像すると楽しいです。一目惚れというか一種の刷り込みのような状態だったんじゃないかなあ。周りの大人達に大事にされてはいたけれど同じような立場の仲間がいなかったエレイニオン少年にとって、物腰柔らかで物知りな又従兄弟に会ったらそりゃあ惚れますって。ケレブリンボールの方はエレイニオンを可愛いとは思っているのだけれど何も知らない子供に対してやはり一線を引くと言うか微妙な距離感がある感じ。
ケレブリンボールはエレイニオンに対しては、けして完全に自分自身を曝け出す事はないのです、多分。自分に懐いている無邪気な子供に、どこか引け目を感じながら穏やかな笑顔で返すと。常に丁寧に接し負の面は見せない。色々なものを作ったり教えたりして一時の平和を楽しんだけれど、やはりそこは彼が真に求める安住の地ではなかった。
(これが後にナルヴィ相手になると、物凄く年上なのにお構いなしで子供っぽく甘えたり拗ねたりするという!!!)
フィンゴンの息子エレイニオンは栄誉あるフィンゴルフィン家の跡継ぎであり、中つ国生まれであるがゆえにノルドールの罪を知らない。翳りなき真っ直ぐな少年です。
対してケレブリンボールは(多分)ヴァリノール生まれであり、第一紀のはじめからのごたごたを全部目にしてきた。最も優れた、しかし同族殺害の罪を犯した罪人でもあるフェアノールの血をいやがおうにも意識して生きてきた。ナルゴスロンドで父クルフィンと袂を分かったけれど、しかしそれで完全に離れられた訳でもない。生まれは変えられないし、周囲の態度もそれに応じたものであったと思われるからです。フェアノール家に生まれ父に従う立場にあった彼としては、道義的に正しい道を選んだとしても親を裏切る事への罪悪感がなかったとも言い切れない。親に従っても逆らっても苦しむ事になるとは、本当にケレブリンボールは厄介な立場に生まれたものです。
避難先でのケレブリンボールは、同族から冷遇される事も多かったと思うんですよね。特にドリアスの二度目の同族殺害以降は、きっと物凄く針の筵だったのではないかと。シリオンにはドリアス難民も多くノルドールシンダール間での婚姻も進んだでしょうから、ドリアスを完全に滅ぼしたフェアノール家の一員に対する風当たりは想像するだに辛いものがあります。クルフィンと決別したから無関係、と思ってくれたとは到底思えないんですよね。そしてゴンドリン難民が合流し少し落ち着いたかと思いきやそれに続いて第三の同族殺害……考えるだに胃が痛いです。
エレイニオン(ギル=ガラド)としては、ケレブリンボールは何も悪くない!と言いたい気持ちでいっぱいなのですが、かといって上級王となった彼が人々の言論を統制するような事をするのはよくないと分かっているので下手に口出しはできないという。
そして第二紀のリンドン時代もケレブリンボールは、初期こそ建設やら何やらで忙しく動いていたので気が紛れていたけれど落ち着くにつれてここは自分のいるべき場所ではないという気持ちが強くなったのではないかと思います。ギル=ガラドの寵愛ゆえだと陰口を叩かれるような事もあったかもしれません。
ギル=ガラドはケレブリンボールを凄く一途に愛していると思うんですよねー。力の指輪に関して、自業自得と切り捨てずエレギオンに援軍を出したのが何よりの証拠かと。ギル=ガラドのケレブリンボールへの想いは、何かもう見ている方が痛々しくなる位です。ケレブリンボールの死から第二紀の終わりまで1700年以上。失ってからの時間の方が長い訳です。それなのにケレブリンボールを一途に愛しヴィルヤを担いサウロンとの戦いに身を捧げたって、悲しい程に真っ直ぐな生き様です。見ている方が、もう諦めていいよやめときなよといいたくなる位に。結婚もせず、自分を裏切った相手を思い続け、最期まで……最後の上級王の生き様切ないです。
この二人の関係は、最期までケレブリンボールだけを想っているギル=ガラドと、それ以外にも大変な事が山積みでギル=ガラドの事まで回らないケレブリンボールという温度差を感じずにいられません。抱き締めていても、ケレブリンボールの方は遠くを見ているようなイメージ。ギル=ガラドにとってケレブリンボールはただ一人の相手だけどケレブリンボールの方はそうではないんですよね……それは別に悪気があるとかではなく本当に天然なのですが。彼を巡る人間(?)関係はあまりに複雑過ぎていっぱいいっぱいなんだと思います。ケレブリンボールは本人全く自覚がないのに周囲を振り回すタイプ。
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